こんばんは
管理人の彰篠宮です。
今回は、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が6月3日に行われた参議院厚生労働委員会で東京五輪に関して「(専門家の)考え方を述べるのはわれわれの責任。しかるべくところに考えを示す」」と述べた事についてあれこれ書きたいと思います。
「安心安全」と言いながら、専門家の意見を受け入れぬ政府
5月28日の衆議院厚生労働委員会で、野党議員から分科会で「東京五輪開催の妥当性を議論する」様に要望された新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、
「(準備はしているが政府から)今のところはそういうお声がかかっていない」
と答えています。さらに野党議員から「このまま意見を求められなくて感染爆発が起こったら、分科会や尾身会長は職責は全うしたことになるのか」と問われ、
「(大会関係者に)私の考えは述べるということはあった」
と、何とも歯切れの悪い内容の答えをしています。
どうやら、新型コロナウイルス感染症対策分科会に所属する感染症の専門家らが「新型コロナウイルス感染症が蔓延する中で、東京五輪・パラリンピック東京大会を開催することのリスク評価」の提言作成を進めたものの、状況を見守りたい政府側の了承が得られず提出できない状況にあるそうなのです。
分科会は、政府の了承を得られなければ公式の会合を開けないので、感染症や医療の専門家は
「開催の是非を判断する立場にはないが、感染拡大と医療への負荷のリスクを客観的に述べることが責務だ」
として、限られたメンバーだけで提言案をまとめ、分科会の提言などとして正式に公表する方向で検討をしていました。ところが、5月下旬頃に「専門家がステージごとの対応に触れることを、国が嫌がっている」との情報が伝えられ、提言の発表にストップがかかったのです。
五輪を巡っては、専門家と政府・組織委員会と専門家とで以下の通り認識が乖離しています。
- 政府・組織委員会:とにかく五輪開催強行。できれば有観客で。
- 専門家:ステージ4では開催は困難。ステージ3では無観客にすべき。
緊急事態宣言解除後に、東京五輪の観客有無を方向づけしたい政府&組織委員会としては、今、「無観客開催」も含んだ専門家の提言公表により、五輪への逆風の強まることを恐れているのであろう、とされています。
「五輪、ステージ3なら無観客」言えぬ分科会専門家 政府が難色(5月31日毎日新聞)
新型コロナ 五輪、提言出せぬ専門家(その1) 政府の了承得られず 非公式会合「ステージ3なら無観客」(5月31日毎日新聞)
新型コロナ 五輪、提言出せぬ専門家(その2止) 逆風、政府警戒 「観客入れたい」本音(5月31日毎日新聞)
尾身会長曰く「五輪開催、今の状況なら普通はない」
分科会の尾身会長が吠える!
月が変わって6月に入り、分科会の尾身会長の語気が徐々に強まってきており、6月2日の衆議院厚生労働委員会にて次の様に述べています。
「今の状況で(五輪を)やるっていうのは普通はないわけですよね。このパンデミックで、そういう状況の中でやるということであれば、五輪の開催規模をできるだけ小さくして管理の体制をできるだけ強化するというのが、五輪を主催する人の義務だと思います」
「こういう状況の中でいったい何のためにやるのか目的が明らかになっていない」
「感染リスクを最小化することはオーガナイザー(開催者)の責任。人々の協力を得られるかが非常に重要な観点だ。なぜやるのかが明確になって初めて市民はそれならこの特別な状況を乗り越えよう、協力しようという気になる。国がはっきりとしたビジョンと理由を述べることが重要だ」
また、同日の衆議院内閣委員会でも五輪開催強行した場合の感染の最小化に向けて
「オリンピックをやるのであれば、国や自治体、国民に任せるだけではなく、組織委員会も最大限の努力をするのは当然の責任だ」
パブリックビューイングについても、
「自分のひいきの選手が金メダルをとったりすれば声を上げて喜びを表すこともあるだろうし、そのあとみんなで『一杯飲もう』ということもありえる」
「感染拡大のリスクを高めるような行為に対し、一般の市民には理解しにくいというのがわれわれ専門家の意見だ」
と述べています。
アドバイザリーボード座長の脇田氏も吠える!
尾身会長だけでなく、新型コロナ対策について厚生労働省に助言する「アドバイザリーボード」の座長である脇田隆字・国立感染症研究所長は、6月2日の記者会見で
「大きなイベントによって国内の感染状況にどういう影響があるかリスク評価し、それに基づいた必要な対策が行われるべきだという意見があった。私自身もそう思う」
と語っており、複数の政府関連の医療専門家から東京五輪開催についての政府・組織委員会対応への危惧が表明されています。
テレ朝、分科会にインタビューし、報道
6月2日、テレ朝の報道ステーションで北田暢子記者が政府の分科会を取材して、尾身会長の発言の背景を探っています。
Q.何故、今日、踏み込んだ発言をしたのか?
大会開催の予定時期が近付くなか、足元の感染は収まらず、危機感がより高まってきているといえます。何よりも専門家らが危惧しているのは、五輪の開催そのものよりも、大会開催によって生み出される人出です。例えば、日本選手が金メダルを取った場合、街中で人が集まって飲食をしたり、騒いだりするということは、過去の例からも明らかです。こうした大会以外の場所での感染防止対策について、政府や組織委員会などが責任を持って行えるのかということが、専門家の危機感につながっているといえます。尾身会長をはじめとする専門家は、今、開催した場合にどういうリスクがあるのか、どういう対策を取ればリスクを減らせるのか。大会の規模を最小限にすることも含めて、リスク評価について提言したいとしています。そのため、一歩、踏み込んだ内容の発言になったとみられます。
Q.リスク評価ですが、開催の可否は含まれないのでしょうか?
厚生労働省の専門家会議で、尾身会長は「政府はもう開催を決定している」と発言したとされています。あくまで、専門家は、政府の判断した開催の可否のもとで、リスクを提言するとみられています。一方で、染爆発といわれる状況を防ぐために、緊急事態宣言を出して抑制しているのに、『ステージ4』から悪化するような場合には、中止せざるを得ないという専門家もいます。
Q.どういう形で、いつごろ提言するのでしょうか?
実は、先週の時点で、ある専門家は今週中にも集まって、五輪について議論をしたうえで、何らかの提言を出したいとしていました。しかし、現時点で分科会など公式の会議は開かれていません。尾身会長もリスク評価について、何らかの形で関係者に伝えるとしていて、提言の方法も含めて、検討が続いているとみられます。時期については、一部の専門家からは「緊急事態宣言が終了する20日まで待っていたのでは遅い」という声も上がっています。
尾身会長は現状は五輪東京大会を開催できる状況にはなく、開催強行する場合は政府や組織委員会から国民に対して丁寧な説明が必要だとの認識を示しています。
発言とやっている事とがチグハグな印象を与えたままでは、国民の賛同は得られないと思います。
五輪開催「今の状況なら普通はない」と尾身茂会長 東京都、国、組織委…不測の事態に責任は誰が取るのか(6月2日東京中日スポーツ)
五輪「何のためにやるか明らかでない」 尾身氏、政府に説明求める(6月2日毎日新聞)
「五輪開催普通はない」発言の背景は?記者が報告(6月2日テレ朝news)
尾身会長曰く「われわれの考え、しかるべくところに示す」
6月3日、参議院厚生労働委員会で、打越さく良委員東京五輪開催についての質問で
「(専門家の)考え方を述べるのはわれわれの責任。然るべくところに考えを示す」
「アドバイザリーボードあるいは分科会でオリンピックを開くかどうかを我々が判断する立場にもないし、権限もない。この一年以上ずっと国内の感染について政府にアドバイスをする立場できている。オリンピックを開催すれば、それに伴って国内の感染あるいは医療の状況に必ず何らかの影響を及ぼす。こうした役割を担ってきた専門家としては、仮にオリンピック開催を決定した場合には、感染のリスクや医療ひっ迫への影響について評価するのは我々の責任だと思っている」
「オリンピック開催に伴う人々の流れが起きる可能性は極めて高いので、成功させるためにはオリンピック委員会の方にも最大限の努力をしてもらう。それが開催する人の責任だと思う。本来パンデミックの中で開催することは普通でない、それをやろうとするのであればかなり厳しい責任をオリンピック委員会も政府も負わないと、一般の市民はついてこないのではないか」
「政府にアドバイスしてもIOCには届かない。どこに述べたらいいか、今検討している。五輪をやるならどういうリスクがあるか申し上げるのがわれわれの仕事だ」
と答えています。前日の衆議院でのものよりさらに一歩踏み込んだ発言をしています。
われわれの考え、しかるべくところに示す=東京五輪で尾身氏(6月3日ロイター)
「五輪開催に伴って国内の感染あるいは医療に必ず何らかの影響を及ぼす」「政府に言ってもIOCに届かなければ意味がない」 分科会・尾身会長
こちらは6月3日の毎日新聞の社説です。以下の様な正論が展開されており、ご一読下さい。
「組織委員会や東京都、政府は、これまできちんと(東京五輪の科学に基づく綿密なリスク評価に)取り組んでこなかった。開催すると感染者がどれほど増加し、医療にどの程度負荷がかかるか。東京から世界に新たな感染を広げるリスクはどうか。中止と判断すべき条件は何か。専門チームを設置し、さまざまな観点から分析・評価することが不可欠だ。にもかかわらず、『安全安心』と繰り返すだけだ」
「政府は、内閣官房に感染症の専門家2人が入っていることを理由に、『専門家の意見を聞いている』と主張する。しかし、大会を推進する利害関係者だ。頼みの綱は政府の『新型コロナ感染症対策分科会』だ。有志が提言作成を進めている。問題は、政府から依頼がなく、公表の機会がないことだ。菅義偉首相は『国民の命と健康より五輪を優先することはない』と述べた。もはや様子を見ている段階ではない」
五輪のリスク評価 分科会の意見聞くべきだ(6月3日毎日新聞社説webサイト)
五輪のリスク評価 分科会の意見聞くべきだ(6月3日毎日新聞社説画像版)
あまりにも遅すぎる、との印象はありますが、ようやく政府関連の仕事をしている医療専門家の中からも、このままでの五輪・パラリンピック東京大会開催に対し物申す動きが出てきたことは歓迎したいと思います。
如何でしたか?
今回は、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が6月3日に行われた参議院厚生労働委員会で東京五輪に関して発言した事に関連して「”尾身の乱”遂に勃発か。「我々の考え、然るべくところに示す」五輪強行に物申す…という話」と題して記事を書きました。
国民の安全安心を蔑ろにして、五輪を優先するのは可怪しいと思います。一日もはやく聖火リレー・五輪・パラリンピック東京大会を中止し、税金をこれ以上無駄に使い込むのを止めて、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって困窮している人々を救うことを最優先して欲しいものです。