こんばんは
管理人の彰篠宮です。
今回は、拙Blogでも何度か記事にした聖火リレーについてあれこれ書きたいと思います。
現在の様な五輪の聖火リレーは1936年ベルリン大会から始まった
近代五輪は、1924年アムステルダム大会までは、大会の期間中メイン会場で燃え続ける聖火はありませんでした。
1928年アムステルダム大会にあたり、オランダの建築家ヤン・ヴィルスがオリンピックスタジアムの設計に塔を取り入れ火が燃え続けるという発想を盛り込んだのです。この聖火という発想は注目され、その後、五輪の象徴として取り入れられました。
アムステルダム大会の際は、アムステルダム電気局の職員がマラソンタワーと呼ばれる塔に最初の聖火をともしました。
現在の様な聖火リレーは、1936年ベルリン大会でドイツのスポーツ当局者でスポーツ科学者のカール・ディームによって発案されました。すなわち、ナチス党のプロパガンダとして採用されたものです。
このカール・ディームの発想
ギリシャで採火した聖火をベルリンまで運ぶ
は、ゲルマン民族こそがヨーロッパ文明の源流たるギリシャの後継者であるというナチス党の総統ヒトラーの思想に適った物でもありました。
このベルリン大会では、ギリシャのコンスタンティン・コンディリスを第一走者とし、のべ3,000人以上の走者が聖火をオリンピアからベルリンまでつなぎ、ドイツ陸上選手のフリッツ・シルゲンが最終走者となり、競技場に聖火をともしたのです。
こうして聖火リレーもまた、オリンピックの一部となったのでした。
聖火リレーを販売した1984年ロサンゼルス大会
Wikipediaに次のような記述があります。
1984年のロサンゼルス大会は画期的な大会で、大会組織委員長に就任したピーター・ユベロスの指揮のもとオリンピックをショービジネス化した。結果として2億1500万ドルの黒字を計上した。
スポンサーを「一業種一社」に絞ることにより、スポンサー料を吊り上げ聖火リレー走者からも参加費を徴収することなどにより黒字化を達成したのである。
この2つ目の文章の後半「聖火リレー走者からも参加費を徴収することなどにより黒字化を達成したのである。」という部分は誤りです。
分割販売された聖火リレー
1984年ロサンゼルス大会の聖火リレーが、分割され、1km当たり3,000ドル(当時の円ドルレート=230円なので、69万円)で一般に販売された事はよく知られています。
このことは、利益のためになりふり構わない大会組織委員長ピーター・ユベロスの、いわゆる「ユベロス商法」を象徴的に表す出来事で、こうした商業主義が五輪の価値や質を貶めたと指摘されています。
しかしこの指摘は、誤解に基づいた誤った認識です。
この聖火リレーによって得られた収益を受け取ったのはIOCでもロサンゼルス五輪組織委員会でもありませんでした。受け取ったのは
- YMCA(キリスト教青年会)
- Boys and Girls Club of America(青少年育成団体)
- スペシャル・オリンピックス(知的障害を持つ人々による五輪)
と言う非営利団体でした。これらの団体が収益金を受け取ったのには、アメリカの社会的な背景がありました。この有料聖火リレーは、実は、ロサンゼルス大会の収支改善のためではなく、五輪開催に対する米国民の関心を高めるための企画だったのです。
1984年当時、多くの米国民はオリンピックを開催することに興味がありませんでした。その背景には、1976年モントリオール大会が9億9,000万ドルという巨額の赤字を出したこと、そして1980年モスクワ大会を米国がボイコットしたため、久しくオリンピックを見ていないことがありました。
モントリオール大会の赤字に関しては次の様な内容のニュースがロサンゼルスのメディアでも報道されていました。
モントリオール大会の赤字のうち、2億ドルはモントリオール市負担となり、同市は不動産税の増税でこれを賄った。残り7億9,000万ドルは、連邦政府による宝くじと、モントリオール市のあるケベック州のたばこ税増税によってまかなわれ、たばこ税増税は西暦2000まで続く予定である(ケベック州の増税は実際には30年におよび、赤字完済は2006年11月でした。禁煙指向の広がりによりタバコの売上げ減により税収が落ち込み、返済が予定より長期に渡ったのでした)。
このためロサンゼルスでは、1978年にオリンピック招致が決まった後も、開催への支持率は高くありませんでした。
ロサンゼルス五倫組織委員長のピーター・ユベロスは、開催に対する支持率を上げるため、聖火リレーに特別な趣向を盛り込もうと考え、東海岸ニューヨーク〜西海岸ロサンゼルスまでの米国横断リレーという企画を考案しました。さらに側近の提案からヒントを得て、参加希望者(個人、団体、企業等)は、
<自分の住む地域に3,000ドルを寄付することで、1kmの距離を走る走者を指名できる>
と言う企画を打ち出したました。寄付された金は、各地域のYMCAなどの非営利団体に渡り、オリンピックスポーツの行事開催に使われることになりました。ピーター・ユベロスは、この企画は聖火リレーを売ったのではなく、聖火リレーによって、オリンピック運動のための寄付金を集めたのだ、と説明しています。実際、聖火リレーで上がった純益1,090万ドルはこれらの非営利団体に寄付されています。
組織委員会の収支には関係ないものの、米国民のオリンピックに対する関心を惹きつけるイベントとしては、ロサンゼルス大会の聖火リレーは成功を収めました。営利団体や個人の収入になっていない以上、この聖火リレーを商業主義の象徴的出来事と考えるのは妥当ではありません。
この方式が日本で出来れば、空気も変わったに違いない
2021年東京大会の聖火リレーの走者は、公募によって選ばれています。
協賛企業4社と各都道府県実行委員会とが行った走者公募に延べ53万5,717件の応募があり、その中から1万人程度が選ばれたと組織委員会から発表されています。
この公募を有料とし、また、参加者から参加費用・ユニフォーム代を徴収して、ロスアンゼルス大会と同じ様に非営利団体や、昨今の状況万円全額は賄えませんが…新型コロナウイルス感染症の蔓延により厳しい状況に追い込まれている方々への支援などに引き当てれば国民のオリンピック不支持の空気も幾らか変えられたに違いありません。
例えば、応募料:1万円、参加料:3万円、ユニフォーム代:3万円とすれば
- 応募料収入 :1万円×53万5,717=53億5,717万円
- 参加料収入 :3万円×1万=3億円
- ユニフォーム代収入:3万円×1万円=3億円
- 合計 :59億5,717万円
そうした聖火リレー収益の慈善への還流システムがあれば、五輪関係者は報道機関などを総動員し、その事を国民に知らしめるべく全力を尽くし、きっと騙されてくれる人々も少なからず居たに違いありません。
まぁ、今となっては世紀の茶番としての聖火リレーが強行されている、という現実しかありませんがね。
如何でしたか?
今回は、拙Blogでも何度か記事にした聖火リレーについて「聖火リレーを「世紀の茶番」としないで済むヒントが前例にあったかも…という話。」と第して記事を書きました。
オリンピックの商業化という観点で注目される事が多いロスアンゼルス大会でしたが、お金を上手く使い、もともとは開催反対が多かった市民の賛同を取り付けました。その意味では「上手いこと」をやったワケです。2020東京大会は、上手くはやれていません。